「IAシンキング」の挑戦
「企画協力」という形で私の名前を載せてくださっているという坂本貴史さん(@bookslope)著の「IAシンキング」という本が3月25日に出ます。あくまで「企画(時に)協力(した)」ということで、まだ読んでいないので中身の感想を書けないのですが…、企画コンセプトに大変賛同!しておりますので、そのことについてちょっとここに書いてみたいと思います。
坂本さんには、私が担当する弊社主催のワークショップや、クライアント向けの研修で講師をしていただいたりしています。その中で使っている演習のネタ(一緒に作った)を本のほうでも使ったりしているということ、あと起案時に多少相談にのったようなのっていないような感じで協力したことになっています。実際に執筆している時期は、ほとんど「頑張れー」しか言っていなかったと思いますが…。
で、この本を手に取る方にお勧めしたいのは、「読む本」として手にしないことかなと思っています。無意識に手に取った本というのは多くの場合「読むもの」として手に取られると思うのですが、例えば小学生の頃に手にした本でいうと、「教科書」ではなく「計算ドリル」や「漢字ドリル」のイメージで手に取ると、いい味が出ると思います。で、ちょっとこの辺をひも解いてお話しできればと思います。
私は「学習の場を提供すること」を仕事にしています。本づくりも「学習の場」を提供する仕事だと思っていますが、私はワークショップやトレーニングなどの企業研修・講座づくりを生業にしています。それは、
- 一つの空間に受講者と講師が居合わせ、
- いくつかの方略を用いて講師がそのテーマを解説した後、
- 実際それを使ってみることで効果を生む演習課題を提示し、
- 個々に試行錯誤しながらアウトプットしてもらい、
- アウトプットに対する講師のフィードバックを提供することで、
- 個々人のスキル習得状況を顕在化し、
- 自分が何を習得できていて、何を未習得で、今後何をどう習得すべきか具体的につかませる
構造をなした学習の場を提供することでしか、個人のスキル(知的技能)習得支援はなしえないと考えているからです。本にはそのインタラクションの実現が困難であり、ワークショップやトレーニングという器は、その辺が自在にできることを強みにしています。
もちろん、その構造をしっかり実のあるものにするのは大変な仕事ですが、ともかくこういう理由で私は、本の編集者でなく、研修のインストラクショナルデザイナーとして学習の場づくりに仕えたいのだと思って仕事をしています。
ただ、このワークショップやトレーニングという器には、本と対照的な弱点があります。それは、提供できる範囲が著しく限定的であること。研修にもいろいろあって、e-ラーニングは受講者数を多くとれるし、講演タイプのセミナーも大人数相手にできますが、先述したような構造をもつ学習の場は、大人数相手ではなかなか成立しません。
実際、私が1年間で提供している研修案件も数は限定的だし、受講者数も年間でみて「千」の単位には到達しません。提供する地域もほとんどが東京です(今度京都に行けることになったけど!日帰りだけど…)。
仮に1回のワークショップの参加者を12名とすると、本を1200部刷って読者に届けた場合、100倍の人に学習の場を届けられることになるわけで、これはえらい違いです。ただ、本にするとき普通に文章を書き起こしていっても、スキル習得には貢献しないし、知識習得に主眼をおいた本はすでにたくさん出ています。しかも「IA100」とかはえらくクオリティが高くて、難しい概念の数々をため息が出るほどわかりやすくひも解いています。だから同分野の知識習得領域の本はもう十分に満たされているのです。
でも、それを活用してWebサイトの設計をうまいことできているかどうかは本人次第であり、その評価も読者側にゆだねられています。よって、これら知識習得領域の本の続きを引き継ぐような思いで坂本さんも編集者も「本×スキル習得領域」に挑戦したわけですが、そこはなんというか、武士だなぁと感服します。
だから、できればこの本を手にしてくださった方には、載っている演習課題を前に自分で試行錯誤してアウトプットしてみて、ドリルのように使ってみてほしいと思います。自分のアウトプットと坂本式の回答例、自分の試行錯誤と坂本式の思考プロセスを照らし合わせて、ある文脈の中でより良い答えを導き出す筋トレに使っていただけたらというのが、著者や編集者の願いかと思います。それで、圧倒的に俺のほうがいい回答だというところに到達したなら、それを著者にフィードバックすると。その一部始終の思考&アウトプット時間を買ったのだと考えていただけると幸いです。
まぁ、とは言っても、これをやるのって個人では結構きついかも。ということで、坂本さんも「まえがき」で書いていますが、勉強会とかでこの本の演習ネタを使っていっせいのせぃ!でやってみて、みんなで答え合わせしてみるとかがよいかもしれません。つまり先述したようなスキル習得の構造を自ら作ると。そんなわけで、応援している本のご紹介でした。
追記:よろしければ続きもどうぞ。「IAシンキング」講座と本
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