金曜の夕方、母から電話があった。まだ17時過ぎくらいのことで、仕事時間にかけてくるとは珍しい。が、昨日は昼食もとれず外出やら社内プレゼンやらとにかく目まぐるしく動いていて電話をとることができなかった。ようやく落ち着いて席に戻った頃には、母からメールがきていた。タイトルは「事件です」。私はあなたの姉さん!か……(by 高島政伸)と、ひとまず突っ込みを。
メールを開いてみると、なんと振込詐欺に遭ったとある。メールは「暇な時にゆっくり話すね」と短めに締めくくられ、事件はすでに終息している様子。とはいえ、できるだけ早く話したいから電話をかけてきたのだろうし、気を落としていたりしてはいけないわと思い、今日の昼休み家に電話をかけてみた(昨晩は遅く今日も仕事だったのです……)。すると、電話口に出たのは父。母は外出していたので、父から事件の全貌をきく。みんなもチェックチェック。
まず、私の兄役からTELが入る。「新宿で博打して友だちに100万円借金した。それを返せなくて業者に借り、現在150万円の借金がある。お金がないんだけど、どうしても今日中に返さなきゃいけない」といった感じで。次に、業者役からTELが入る。先の兄役とつじつまの合う感じで支払いを求めてくる。ともに父が対応したそう。
思わず振り込んじゃいそうなポイントは「着信番号が兄の携帯番号である」「本人に声が似ている」「業者は(きっと)怖い」「150万円とどうにか捻出できそうな金額設定である」。あとは、情報の具体性とか、会話中の切り替えしの巧みさ、全体の流れのつじつま合っている感じ、こんなところじゃないかしら。
なかでも不可解なのは「着信番号が兄の携帯番号である」だ。実はこれ、事件の2日前から伏線が敷かれていたのだ。水曜の時点で兄役が家に電話をかけており、携帯電話を替えたから新しい番号に変更してくれと連絡しているのである。これは母が対応。父にも番号を変更しておくよう指示されている。父は母から話を聞いているため、当然兄本人から連絡があったものと信じて疑わない。また一度番号変更を手続きしてしまえば、番号自体を自分で憶えている必要もないし、その出来事も記憶の彼方に沈められてしまう。そのため2日後兄の番号から着信があれば、まず兄に違いないと信じてしまうのだ。
ちなみに、母はこの電話で兄の声がちょっと変だとは思ったらしい。が、ここでまた巧妙なのが、母がちょっと疑わしく思って「○○?」と兄の名を確認すると、「風邪がなかなか治らなくって」と返してきたのだそうな。それで母は声の違和感をあっさり受け流して兄だと信じてしまった。というのも、兄夫婦とも1週間前に風邪で寝込んでしまって、孫の面倒をみに母が兄宅へ出向いて間もない出来事だったから。「風邪をひいちゃって」ではなく「風邪がなかなか治らなくって」と切り替えすところが実にいやらしい。
結局、そんなこんなで途中まで相手の思うつぼだったわけだけど、偉かったのは、ひと通り話を聞いた上で父が兄役に言った一言、「おまえの生年月日は?」。振込詐欺も多発しているから、念のためおまえの生年月日を言ってくれと話したらしい。うーん、やるねぇ、かっこいい。兄役は「信じられないのか」とかなんだとか切り替えしてきたらしいが、結局は答えられなかったわけだ。ただ、その切り替えしもわざとらしさがない巧妙さがあるらしく気が抜けない。
それでもまぁ、父の疑わしいという意識は幾分高まって、とにかく本人確認をするからと一旦電話を切った。ここで最近携帯電話が替わったことにも意識が及び、すぐ連絡がとれる兄の奥さんにTELして確認したところ、義姉はここ最近で兄は電話を替えていないという。今度は最終確認で兄の勤務先にTEL、不在だったが折り返しTELをもらって父が話したところ、兄本人から、最近携帯電話を替えてはいないし、2日前も今日も父とも母とも電話で話した覚えはない、もちろん新宿で博打して借金もしていないということで、振込詐欺と確定。父がすぐ警察を呼んで今回の全貌を報告したということだった。
皆さんもあらかじめ本人確認用の質問を5問くらい用意しておくと良いでしょう。本人なら当然知っているはずのこと。「生まれた場所は?」「おまえの兄弟は未婚か、既婚か?」「父(母)方のじいちゃんは健在か?」「○○に大きな怪我をしたのは何歳のとき?」「兄弟は何人?名前は何?」などなど。
それにしたって、数日前、自分が息子だと信じて電話で話した相手が、実はまったくの赤の他人で極悪人だったというのは、はっきりいって、ものすごく、ものすごく、心の痛いことだ。それが、本当にひどいことだと思う。本当にひどいことだ。本当に。
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