スターバックスに憩う無賃くん
痩せ型の中年男性。スレンダーでなく、あくまで痩せ型という表現が正しい。私がよく行くスターバックスのお店に、彼もまたよく現れる。いつも端っこの指定席に腰掛け、ノートPCを開いてカタカタやっている。(人のことは言えないが)いつも覇気のない感じで、それが逆に彼を目立たせているようにも思う。
ある日、私は彼の指定席のまん前の席に座って本を読みながらコーヒーをすすっていた。すると彼がお店に現れた。(あぁ、そういえばこの人いつもここに座ってるよなぁ)なんてことを思いながら、本から少し目を離し、彼の振る舞いを見るともなく見ていた…らば、見てはいけないものを見てしまった。
彼は、何も買うことなく、誰かが片した小さなエスプレッソのコーヒーカップを持ってきて私の目の前に来ると、そのまま指定席に腰を下ろした。あれま。気になって、やはり見るでもなくしっかり観察していると、カバンの中からマイ水筒を取り出し、使用済みのエスプレッソのカップの中に水筒の中の飲み物をささっと注ぎ込んだ。あれま。
すると、すぐさま水筒をカバンの中にしまいこみ、今度はカバンからスーパーの白いビニール袋を取り出した。中に何が入っているかと思えば、焦げあとのついた食パンだった。それをまた手際よく適当な大きさにちぎって口の中に放り込むと、その袋もまたカバンの中の取り出しやすいところにしまった。
しばらくもぐもぐした後エスプレッソのカップに入った飲み物をごくんとやった。口が空っぽになると、またビニール袋から食パンをちぎって、また口に放り込んだ。で、またもぐもぐやって、エスプレッソのカップに入ったエスプレッソでない飲み物をごくんとやった。カップにエスプレッソが少し残っていたとして、水筒の中が水なら薄めのカフェアメリカーノ、牛乳なら薄めのカプチーノになるのだろうか…。
とにかく、もぐもぐ&ごくんを繰り返しつつノートPCをカタカタやっていたのだ。指先から肘の辺りまで、素肌にペンキみたいなのが散らかって付いていたが、手は洗いに行かなかった。なんとも謎めいた人であるが、水筒のみならず食パンを焼いて持参するなんて、その見事なまでの準備態勢にズルイとかそういう感情はどうしてもこみ上げてこない。妙に寛容な気持ちにさせられる。パンをどこで焼いてきたのかも謎だけれど、自宅で焼いて一式飲食物をいつも持参しているとなると、よっぽどここで憩う事を欲しているのだろう…。
ただ、そのエスプレッソのカップを片した人のことを思うと、ちょっと胸が痛む。まさか、自分の残したエスプレッソが彼のカフェアメリカーノになっているとは知る由もないだろう。いや、知らない方がいいに決まっているのだけれども。
« 村上漬けに司会依頼 | トップページ | 白洲次郎という感動 »
コメント