若者の「職業生活の満足」のありか
厚生労働省が公表した「若年者の雇用実態」調査レポートで、とりわけ興味深く読んだのが、全国で働く若者に尋ねた「職業生活の満足度」だった。「仕事の内容・やりがい」と「職業生活全体」において、正規雇用より非正規雇用で働いている若者のほうが満足度が高い結果に、ほぉ!となったのだ。
調査では、全国で働く若者(15歳〜34歳)に仕事内容や職場環境、待遇面などの観点で9項目の満足度を問い、さいごに職業生活全体の満足度を尋ねた。これらを「若年労働者の職業生活の満足度D.I.」として、雇用形態(正規と非正規)別に示したレポートがある。下の図は、それをもとに筆者が作図したもの(クリック or タップすると拡大表示する)。
ちなみに「満足度D.I.」というのは、現在の職場での満足度について、「満足」又は「やや満足」と回答した労働者の割合から、「不満」又は「やや不満」と回答した労働者の割合を差し引いた値をいう。
回答結果として想像に難くないのは、正規雇用では「雇用の安定性」の満足度が高くて、アルバイトやパートなどの非正規雇用では「労働時間・休日等の労働条件」の満足度が高いのだろうこと。これは想定通りの結果(上図:青い文字の「想定通り」マーク)。
なのだが、興味をひいたのは「仕事の内容・やりがい」と「職業生活全体」が、正規より非正規で満足度が高い結果だ(上図:赤い文字の「ほぉ!」マーク)。
「仕事の内容・やりがい」は、正規が55.2ポイントに対し、非正規が59.9ポイント、4.7ポイント高い。「職業生活全体」は、正規が37.8ポイントに対し、非正規が45.3ポイント、7.5ポイント高い。
何に価値をおくかには、もちろん個人差があって然るべき。アンケートで提示された9項目のうち、どれに職業生活上の重きをおくかは人によって違う。だから「雇用の安定性」でも「労働時間・休日等の労働条件」でも、それを職業生活に求める人が、それに満足する職場で今働けているのであれば、雇用形態が正規であれ非正規であれ、望ましい状態と解釈できる。
つまり、上の調査で具体的な9項目に関して言えば、本人がその項目に重きをおいているのかどうかと関係なく訊いた「項目別の満足度調査」であるからして、「雇用の安定性」についてなんら重視していない人の「満足していない」回答も不満にカウントされているわけだろう。
加えて思うところは、こう9項目ずらっと並べられると、回答者個々の主観は異なれども客観的には、さも同等の価値をもって重視されている価値基準9つのようにも一見みえてしまう。けれど、あくまで「一見」にすぎない。数秒落ち着いて眺めてみると、背比べさせて均一に背丈がそろう9項目を立てたわけでもなさそうだ。
そうして9項目眺めていると気にかかってくるのが「雇用の安定性」のデフレ感だ。もちろん「雇用の安定性」を重視する人もあって、何らおかしくはない。わけだが、数十年前の高度経済成長期と比べれば、その価値を下支えする理屈がそんなに盤石ではない点、無視はできない。
勤め先どころか、勤め先が足場をおく業種・業態すら、この先10年でどうなるかわからない変化の時代を背景に敷いて視ると、1企業の「雇用の安定性」に価値をおくことに、どれほどの意味があるのかという問いは、どうにもこうにも頭をもたげてくる。
安定性を重んじる人生観をもつ人であれば、今自分が就業している勤め先、1企業における「雇用の安定性」ではなく、一歩引いて中長期的にみた自分、1個人における「生涯キャリアの安定性」を価値基準の一つとして、物差しを持ち替えてみたほうが理にかなうかもしれない。そうしてみて今この勤め先を選んでいるという話なら、たのもしいかぎりなのだが。
そんなことを悶々と考えながらレポートに目を通していると、非正規が
「雇用の安定性」(38.1ポイント)は正社員に比べて満足度は低くなっている
という言及がどれほどの問題性をもつものか、受け止めようが定まらずに宙に浮いた。
他方で、非正規の「仕事の内容・やりがい」の満足度は、正規雇用のそれを上回っている。その仕事内容が具体的に何なのかは、人それぞれで違うわけだが、仕事の中身にやりがいを見出して日常生活を送り、有意義な経験値を積み上げられているのであれば、この満足度を高く評した人ほど、正規か非正規かを問わず「雇用の安定性」は低くとも「キャリアの安定性」は手堅いようにも思えてしまう。
非正規の若者が、そもそも「雇用の安定性」を得たいと思っていなければ「雇用の安定性が低い」調査結果に、問題は生起しない。「職業生活全体」の満足度の高さからは、「雇用の安定性」にさしたる価値をおいていない解釈もわいてくる。
と、まぁ、レポートを読んだときの雑感をだらだら書いたにすぎないのだけど、昨今いろんな思いこみを解体しながら丁寧に一つひとつの現象を眺めていく必要に駆られることが多い時世なので、雑感を雑感のまま、ここに書き留めておく。
*令和5年若年者雇用実態調査の概況┃厚生労働省(2024年9月25日)
最近のコメント