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2018-10-23

「アタマのやわらかさ」の原理。を読んで

名だたる広告クリエイターの著書を手がけてきた編集者、松永光弘さんが著した「アタマのやわらかさ」の原理。*1を読んだ。

松永光弘さんが編集者として手がけた本は、広告・デザインをつくる仕事に従事する人なら誰でも一冊は手にしたことがあるのでは、というほど。

広告というのは常に、これまでにない新しい何かを求められ、「新しい価値の提示」を役割とする。それを作るトップクリエイターは、どんなアタマのつかい方をしているのか。そこに見られる「アタマのやわらかさ」とは何なのか。どういうふうに成り立っているのか。どういうふうに養っていけばいいのか。

松永さん自身がこれまでに見聞きし、経験し、学んできたことをベースに導きだした「こういう考え方をすると、いろんなことに説明がつくし、思考を進めやすい」という仮説が語られている。

これまで広告会社や学校などでお話ししてきた内容を整理しなおし、加筆、再構成して、4回の講義のかたちにまとめたものということで、平易な話し言葉になっているので読みやすい。例もふんだんに織り込まれているので、面白いし、わかりやすい。さすが本づくりのプロだ…と、それだけで敬服する。

そして書いてあることが、ロジカルで優しい。ときにロジカルな文章はゴツゴツしていて痛かったり、優しい文章は論理性を欠いていたりするけれど、松永さんのお話は両方とも見事にそなわっているので、腑に落ちるし、自分もやってみようって心持ちに自然ともっていかれる。それを、ただ優しい語り口やロジカルな文章展開でやっているんじゃなくて、お話の中身そのものでやってくれている感じ。

話し始めに、優秀なクリエイターがやわらかいアタマで新しい価値を提示するとき、「ひらめく」というより「見つける」という言い方をする、という話がある。

ひらめける人になろうと言われたら途方もなく感じて、んなのできる人はできるし、できない人は一生できませんよってな気分になっちゃうけれど、「優秀なクリエイターはひらめくより、見つけるって言う」ということになると、新しい価値を発見する機会は自分の外に点在していて、それをうまく見つけるコツなりスキルなりを身につければ、自分にも新しい価値を発見できそうな気がしてくる。

松永さんの話の中身には、そういう指摘の鋭さと、人を動機づける優しさが両方ある。

もちろん話はそこにとどまらない。松永さんは、広告クリエイターたちと一緒にブレストしたり、彼らを著者とした本を作ったり、お酒を飲みながら話したり、議論したりする経験からいって、

みずからの発想を体系化してメソッドのようなものを編みだし、日常的に用いている人はあまりいません。本で紹介されているような、いわゆる発想法をつかってなにか考えている人も、ほとんど見かけません。たいていの人は、なんらかの課題を投げかけると、ごくふつうに考え、ごくふつうに悩み、ごくふつうに自分の意見を話します。

読んでいて心地よく、励みになった一節。でも、じゃあ優秀なクリエイターは何を共通項として特徴づけられるかというと、さまざまな視点(切り口、アングルとも)で考えなおしつづけていることが語られる。

大切なのは、最初の反応ではありませんし、発想の瞬発力でもありません。どう考えなおすか。もっといえば、望むような結果にたどり着くまで、どう考えなおしつづけるか。

何かをみたときの最初の反応が優れているかどうか、何をひらめけるかどうかで決まるんだよってことではない。最初の反応は、ごく常識的なもので構わない。むしろ常識的なものの見方でまずは反応してみて、そういう自分の価値観なり世間の常識なりを認識した後、そこに価値を固定せずに、さまざまな視点で別の価値を探しにいって、新しい価値が見つかるまで探しつづけられるか、これだってものを見つけたときに目利き力を働かせられるかどうかってところだ。

とはいえ、この「視点」というのも、物理的なものを見るのに視点を切り替えるんだったら、横からみるとか底からみるとか替えてみるのはわかりやすいけれど、往々にして私たちがみる対象は概念的なものなので、ただ視点を切り替えるといっても、どう切り替えるのってことがわかりづらいですよねってことで、それも具体的に「組み合わせで見る」ということの意義や方法について、なるほど!という話が分かりやすく手ほどきされる。

そもそもモノや人、情報の価値は、組み合わせの中で決まる

という松永さんの解釈も、なるほど!と腑に落ちるし、

編集とは、組み合わせによって価値やメッセージを引き出すこと

という定義づけも、分かりやすく浮き彫りにされていく感じ。

多くのトップクリエイターと仕事し、議論し、おしゃべりし、たくさんの時間を共有してきて、彼らの資質や特性、価値観、共通項やそれぞれの個性を見分けて深い理解を獲得した編集者ならではの実践から編み出した本。「編集者が著した本」という価値が染みわたっているような本だった。

*1: 松永光弘「アタマのやわらかさ」の原理。(インプレス)

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