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2018-03-14

100の事例解説より、自分で事例研究へ

法人向けに研修プログラムを作って提供する仕事をしていると、「事例解説」を求められることが多い。先方ご担当者から「事例をふんだんに入れてほしい」と求められることもあるし、受講者にとるアンケートでも「事例がたくさんあって分かりやすかった」という感想コメントは定番だ。

事例解説というのは、たしかに有効なアプローチだ。新しい概念や方法論の説明って、ただ聴いただけでは、なかなかぴんと来ないもの。事例解説を加えると、それを現場でどう使うのか、どう組み込むと効果的なのか、どういうドキュメント&コミュニケーションで周囲を動かすのか、どういう所がはまりポイントなのか、どういうリスクヘッジや根回しが必要になるかなど、文脈にそって具体的なイメージをもてる。

概念説明だけでは取りこぼしてしまう"痒いところ”を、ストーリーに織り込みながら解説できるので、聴き手は自分の持ち場に取り入れやすくなるし、新しい概念それ自体の理解も深まる効果が期待できる。もちろん話し手がそういう話し方をすれば、という条件つきだけど。

優れた事例解説には、事例解説ならではの学びがきちんと埋め込まれている。一件の事例から、あるいは複数の事例を横に並べて、熟達者はこういう観点をこんなふうに解釈して、再現性あるノウハウをこんなふうにストックしていくのか、という思考プロセスを学べるように話す。逆に、一事例から下手に拡大解釈して他にそのまま適用することがないようにも、注意を払って解説をする。そういう事例解説は、何か新しいことを学びはじめたとき概念説明と一緒に聴いておけると、知識基盤を固めやすく、その後も能率よく知識をアップデートしていける。

と、私は事例解説というアプローチに、それならではの価値を感じている。のだけど、数を聞いたら聞いただけ身になるというものでもない、とも思っている。

知識基盤を作ったら、あとその上にトンテンカントンテンカン更なる知識ノウハウを積み上げていくのは、自分の仕事にしたほうがいいのではないか。つまり、その後も延々と事例解説を他者に(だけ)求めるのではなく、自分で(も)事例を世の中から収集し、分析し、そこから学べるポイントを抽出し、応用できる状態でストックしていくように切り替えたほうが、スムーズに血肉化するのではないかと思う。

というわけで最近「事例を前年よりさらに多く」と求められた案件では、100の事例解説より自分で事例研究を!として、受講者が自分で事例を集めて、自分で分析して、自分で他のメンバーに解説し、事例研究を交換しあうミニ演習を、提案に盛り込んだ。

ワークシートを配って、そこを埋めてきてもらう形なら、そのシートの構成次第で難易度や所要時間はチューニングできる。受講者のレベル感や時間枠に合わせてどうワークシートを作り込めるかは、こちらの腕の見せ所だ(これがテキトウだと効果は見込めなかったりする)。

宿題で、ちょっと事例を持ってきてもらって、次の回にグループごとに事例を解説しあってもらえば、事例とそのポイントを自分で説明する訓練にもなるし、「どこどこ社も、こういうふうに取り入れて、こんな反響が得られているんですよ」などと話せるようになれば、明日からのちょっとした営業トークにも取り入れられるかもしれない。

事例解説を欲しがる人から、事例解説を与える人、ネタを持ち寄って交換しあう人間関係に変わる。そういう研修プログラムを提供したい、そう思った。実務家には、現場から持続的に学び続ける能力が必要だと思うし、そういう能力獲得を後押しする支援をしていきたい。

もちろん、数十分のセミナー時間枠で、そのテーマを一から説明する必要がある対象者なのに、ただインタラクティブで盛り上がるからという理由でワークショップ形式を持ち込み、解説もそこそこに事例研究をやらせるのは違うと思う。でも、一定の時間枠を確保できて、自由に研修をデザインできるなら、事例解説だけでなく、「事例から何をどう学ぶかポイント解説→事例研究の演習」を組み込んでみるといいんじゃないか。

「お客さんの要望をそのまま形にするのではなく、背景にある潜在的ニーズを読み取って提案するのだ」とはよく言うけれど、お客さんからオリエンを受けたとき、「事例解説を厚くしてください」ってわかりやすい要望を出されると、そのまま「事例解説を厚くします」って、要望に応えそうになる。素直さとも言えるが、思考停止とも言える。

それでほんとに、より高い効果が見込めるか、いやぁ、違和感あるなぁと思ったら、その違和感を大事にしたい。きちんと違和感に気づいて、そのもとをたどって言葉にして、どうだったらいいのか考えて、そっちのアプローチも作って提案する。そんなふうに、本当に意味がある、現場パフォーマンスを変える学習経験って何だろうっていうのを練って提案するのを当たり前の感覚として研ぎ澄ましていきたいと思った最近の一件。

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