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2016-06-04

「UXデザインの教科書」の感想メモ

最近出たばかりの安藤昌也氏「UXデザインの教科書」(*1)の読書メモ。といっても例によって、まだ1/4程度しか読んでいないんだけど、70ページくらい読み進めて良書だなぁと思ったのと、冒頭にぐぐっと惹かれる一節があったので、取り急ぎ。

これはタイトルどおり、「教科書」というコンセプトを体現した本だと思う。いい意味で、ザ・教科書。UX(User eXperience)デザインの概念、考え方や方法論、プロセス、手法が、体系的に分かりやすくまとめられている。安藤先生が20年のキャリアのうち、前半は実務家として、後半は大学教員としてUXデザインに携わってこられた知見が、バランスよく注入され、洗練された一冊に仕上がっているという印象をもった。

下手な翻訳本のように無理やり米国の方法論を和訳して説明したぎくしゃく感もないし、研究者向けのがちがちなアカデミック感もなく、かといって一実務者がまとめた実践知とも違う。実務とアカデミックの世界を見渡せる安藤先生ならではの視座から、双方の読者に役立つように丹念に言葉や構成、語りや解説事例が選ばれ、わかりやすく編まれている、お手製感ある専門書。読者対象を学生から実務家まで幅広く設定しているけれど、それにきちんと対応して仕上げている良質さを感じ受けた。

あと冒頭の「本書の使い方」の中で、注意点として挙げている一節にぐぐっと惹かれたのだ。私が提供する研修稼業も、ここに書かれている「教科書」の役割と共通する位置づけな部分があり、それをこんなふうに言葉に言い表し、かつ実際に中身でもって「教科書」の価値を体現する手腕に、敬服の念を抱いた。

本書はUXデザインに関する知識を中心にした教科書である。どのような分野でも同様だが、実践の現場は教科書通りにはいかないことがほとんどである。本書も実践を意識し、著者の経験をふまえているとはいえ、この教科書通りに行えば必ずうまくいくことを保証しているわけではない。特にUXデザインは、企業などの組織で取り組むことを前提としたデザインの実践であり、正しいプロセスよりもむしろ的確な意思決定の方が重要かもしれない。しかし、個別組織の意思決定の良し悪しを本書で扱うことはそもそも困難である。
教科書が示す体系的な理論やプロセスは、既存の知識を整理するだけでなく、新たな知識を位置づけやすくする知識基盤となる。知識基盤を持つことができれば、実践による成果の振り返りが知見となり、より高い専門性を発揮できるようになる。また、チームや組織として同じレベルの知識を持つことができ、相互のコミュニケーションを円滑にし深い議論を交わす土壌を作ることができる。さらに、その効果によって良い実践につながる可能性も高まる。

中身が「教科書」としての価値を示せていなければ、これはただの言い訳にしか読めなくなってしまうわけだけど、そうとは感じさせない読み応えをそなえていて、読み進めるほどに「教科書」ならではの価値を実感させられる。一度読み通した後も、手元においておき、辞書的に何度でも引いて、長期的に都度役立てられる本だなぁと思う。

あとは、ここまでで疑問符が浮かんだことなど、いくつかメモを残しておく。

●p55(注釈10)
「ドナルド・ノーマンが区別した人間の特性」が【UXの期間別の種類】と、次のように関連していると説明しているが、

「本能レベル(概観)」→【瞬間的UX(利用中)】
「行動レベル(使うときの喜びと効用)」→【エピソード的UX(利用後)】
「内省レベル(自己イメージ、個人的満足、想い出)」→【累積的UX(利用時間全体)】

ここでは【予期的UX(利用前)】は挙げられていない。でも、ここの説明だけで解釈すると、下のように関連づくと言われたほうが自然に感じられて、疑問符が浮かんだ。

「本能レベル(概観)」→【予期的UX(利用前)】
「行動レベル(使うときの喜びと効用)」→【瞬間的UX(利用中)】
「内省レベル(自己イメージ、個人的満足、想い出)」→【エピソード的UX(利用後)】及び【累積的UX(利用時間全体)】

これは、元になっているドナルド・ノーマン著「エモーショナル・デザイン」読めよ!という話かもしれない…。

●p56の「累積的UX」の説明
「累積的UX」に次の2つの記述があり、前者は使用前の「予期的UX」を含まず、後者は含む説明と読めるのが気になった。

・「使用期間全体を振り返るときの体験」
・「製品との出会いから現在までの関わりを回顧して、ユーザーが製品との関わりをどのように感じているかに関するもの」

本文や図から受ける印象としては、「予期的UX」も含んでの「累積的UX」ってことなのかなと読んだけど、だとすると「使用期間全体を振り返るときの体験」は言い方を変えたほうがいいのかもな、と思ったが、どうだろう。

「エピソード的UXは、瞬間的UXを内包している」とも書いてあるから、下の図のような入れ子構造で「UXの期間別の種類」を表すこともできるのか、どうなのか。

書籍内の「UXの期間別の種類」(UX白書.2011)を入れ子構造で表してみた図

●誤脱字(コメント欄にメモ)
70ページくらい読んだ中で見つけた誤脱字は13点ほど。決して少ないとは言えないけど、文章そのものが読みやすいのと、誤解釈を与えるような誤りはなく、ちょっとしたものばかりなので、あまり気にならなかった。出版社のサイトから報告しておくので、重版・改訂版や電子書籍化があれば修正されるだろうか。丸善出版のサイトは、正誤表は作っているようなのに、各書籍ページからリンクされていないのは残念だ。

とにかく、UXデザインを体系的に学ぶには、とっても良い本だなぁと思った。ってここで気を抜かず、続きも読まねば…。

2016.6.11追記)
概ね読み終えての感想。やっぱり読みやすい。遊びがあるようで、無駄がない文章。ガチガチでなく、ユルユルでない、絶妙に読みやすいチューニングが施されている、そんな感じ。
体系的・網羅的に要素が押さえられているんだけど、そこから主要なものに説明を割いて、そうでないものは参考文献を提示するというメリハリがある。
手法についても、それぞれ強みと弱みを双方バランスよく提示していて、この手法を用いる際の留意点はこれこれなど、(おそらく)これまでの指導経験をもとに初心者が陥りがちな観点を具体的に提示していて、教科書として良質だなと思う。
あと読者として押さえておきたいのは、後半に進んで内容が「プロセス」「手法」に入っていくと、これはもう実体験なしに深い理解に至ることは難しいだろうこと。それを前提に、とりあえず知識として、あの手この手があることを理解して、目的や状況に応じて手段を使い分ける必要性を認識しておくこと。そこまで導くのが本書の担う役割で、また実体験をした後に読み返すと、体系的に知識として定着させるのに役立つんだろうなと思う。

*1)安藤昌也「UXデザインの教科書」(丸善出版)

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コメント

【文字校正的なメモ】
全体:「して欲しい」と「してほしい」の表記ゆれ → 「してほしい」に統一
ix: 役立てるというようりも → 役立てるというよりも
p7: 人工知能の高度化も驚くスピードで高度化しており → 人工知能も驚くスピードで高度化しており
p19: 考え方に基づUIデザインの演習など → 考え方に基づくUIデザインの演習など
p22: コミニティサイト → コミュニティサイト
p26: ゆっくり走りって → ゆっくり走って
p26: プロモーション効果も非常に大きな効果があった → プロモーション効果も非常に大きかった
p27: グラフのキャプション)アンケート結果 → 「ゆっくり丁寧に運転してほしいと感じたことはありますか?」のアンケート結果
p38: アプトプット → アウトプット
p43: 信頼感できるよいものになる → 信頼できるよいものになる
p43: その組織の戦略にあった組織らしい → その組織の戦略にあった、その組織らしい
p44: デザインを詳細化していことが → デザインを詳細化していくことが
p53: Nielsen-Norma Group → Nielsen-Norman Group(ページ中に2ヶ所)
P60: SEPIA法(欲を言えばカタカナ読みも添えてあると、さらに教科書的でありがたい)
P64: 共有したい」とった → 共有したい」といった
P79: 25010よる → 25010による
P89(1ヶ所)、P90(2か所): アジャル型 → アジャイル型
P90: 行なわれる3段階 → 行われる3段階(表記ゆれの統一)
P96: それらに適合させて~の設計を目標としている → それらに適合させた~の設計を目標としている
P96: エルゴノミスク → エルゴノミクス
P97: 次に「プラン」と「ゴール」に照らして「比較」される → 次に「外界」と「ゴール」に照らして「比較」される(ではないのかなと思っただけですが)
P99: わかるわかることから → わかることから
P99: わかりやさを → わかりやすさを
P101: 技術理解の多用性 → 技術理解の多様性
P102: 元の状態に戻せる方法なければならない → 元の状態に戻せる方法がなければならない
P102: 知っていれば~試してみて気にさせる → 知っていれば~試してみて気になる
P105: 言及されてない → 言及されていない
P109: プロモーション活動を工夫をすることで → プロモーション活動の工夫をすることで
P114: 行なわれている → 行われている(表記ゆれの統一)
P117: アクセス・ログ → アクセスログ(表記ゆれの統一)
P120: 研究で示されおり → 研究で示されており
P132: 時間的に変化に着目した → 時間的な変化に着目した
P135: モデルを作成すことを → モデルを作成することを
P136: ユーザーが対象行為に対する~を推測し → ユーザーの対象行為に対する~を推測し
P140: 新たな音楽を出合える価値 → 新たな音楽に出会える価値(表3.7内)
P140: お勧め表記 → お薦め表記(表3.7内)
P142: 大きく2つ観点で行う → 大きく2つの観点で行う
P142: 純粋に追及する → 純粋に追求する
P143: 評価やブラッシュアップするので → 評価やブラッシュアップをするので
P146: 体験価値位に基づく → 体験価値に基づく
P147: 使っていないユーザーには、使っていない機能で~に気づくことはない → 使っていないユーザーは、使っていない機能で~に気づくことはない
P148: この段階では、初めてビジネスの要求事項を考慮する → この段階で、初めてビジネスの要求事項を考慮する
P150: サービスが受けれる → サービスが受けられる(図3.26内)
P151: 説明してまう → 説明してしまう
P154: 理になかった手法 → 理にかなった手法
P154: バリューリシナリオ → バリューシナリオ
P158: コンセプトの妥当性をユーザーの参加による評価を行い → コンセプトの妥当性をユーザーの参加によって評価し
P158: アプリやWebサービスを開発というようなことが → アプリやWebサービスを開発するというようなことが
P159: ここでの特徴は、〜明確化していく。 → ここでの特徴は、〜明確化していくことだ。
P159: プロトタイプには〜目的が異なり → プロトタイプは〜目的が異なり
P159: 検討の範囲を → その検討範囲を
P159: 一緒に作業することで、〜進めることができる(or 一緒に作業することが、〜進めることにつながる)
※途中まで

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