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2016-06-19

人材開発の潮流メモ(2016年)

毎年米国で開催されている世界最大級の人材開発国際会議の2016年版「ATD-ICE 2016」の報告会(*1)に行ってきた。独断と偏見で切り取っているので網羅性がなく、私的メモ書きも混ざったごった煮だけど、2016年の人材開発の潮流ということで。

●組織のラーニングカルチャーが問われる
ATDのCEOであるTony Bingham氏のオープニングは、ラーニングカルチャー(日常的に学び合う、教え合う企業文化)をどう育むかが大事とのメッセージ。

◆成功している企業は、一般的な企業に比べて5倍のラーニングカルチャーが確認された
◆ラーニングカルチャーを取り入れている企業は41%にすぎない

報告会でお話しくださった人財ラボの下山博志氏いわく、「企業のトップで教育を軽視している人はそうそういないが、ラーニングのコンセプトをきちんと認識しているかは微妙」といった所感を述べられていた。

ここがずれると、「人が大事」とかは掲げているんだけど、人材開発に関する施策の方向性、具体策、予算の割き方といった実際面がずれてしまって、結局活動が本質的な意味をなしていないという事態に陥る。そして、こうしたズレは往々にして起こる。

人材開発の現場に立つ身としては、そこの抽象(人が大事、人材育成は大事)と具象(ゆえの施策)をきちんとつなぎあわせて整合性をとり、途中でずれたら都度補修し、“その組織/個人の”パフォーマンス向上まで一貫させるディレクションが、能力の発揮しどころの一つだよなと思う。クライアントとの関わりの中で、自分のできる範囲からだけど、この辺は当たり前の任として実直に重ねて、自分が提供できることを広げ深めていきたい。

って、話がずれた。ラーニングカルチャーの整備に必要な3つのポイントとしては、日常業務の中に、アイデアと人をつなげてお互いに学び合う「コネクション」の仕組みをもち、常にアクセスできる「プラットフォーム」を整備し、いつでもアクセスできて「継続的に学ぶ」環境づくりが求められる、という話。

じゃないと、研修をやっても打ち上げ花火で終わってしまう。学び合う文化をもたない組織がそれを持つのは、「企業文化を変える」取り組みで決して容易ではないが、そういう前提で腰をすえてかかる必要がある。

●リーダーの仕事は部下を信頼し、安全な場を与えること
従来のリーダー像といえば、部下に対してエンドルフィン(やる気を出す)とかドーパミン(達成感)を刺激するといった達成動機を与えるスタイルが主流だった。でも、これは一時的で短命、中毒性があり、利己的なホルモンとされる。

それよりも、セラトニン(幸せホルモン)、オキシトシン(愛情・忠誠心)を刺激する親和動機を与えたほうが、長期的に効くインセンティブとなる。

リーダーは部下に対してゴールを設定し、インセンティブを与える。そのインセンティブは、神経科学の文脈にのせると、この4つのホルモンで表わせるが、大事なのは前者より後者を与えること。従来型でやっているなら、切り替えよと。

皮肉、不信感、不安、恐れ、自己利益がはびこる危険な環境を与えるのではなくて、部下を信頼して安心・安全に働ける環境を作ってあげることで、部下は自己防衛せずに自分を出せる。部下が自己防衛に時間や能力を使い過ぎないようにせよと、そんな話。

●ニューロサイエンス流行り
ちなみに、今回はニューロサイエンス(神経科学)が大流行りだったそうで、どこもかしこもプレゼンスライドに脳の画像が貼られていたとか…。参加者によれば「これは違うんじゃないの?」ってな、うさんくさいのもあったそう。

自分の主張したいことありきで、その説得材料にニューロサイエンスを濫用しているケースもある気がするけど、まぁそれが世の常。だからといって全否定するのも雑だ。流行りにのってしまったものは、受け手側に「うまく取り入れていく」手腕が問われるもの。そういうもんだろう。

で、それらしいところを拝借。インセンティブを神経科学から語ると、こういうことらしい。

[達成動機]
◆エンドルフィン:運動時や笑っているときに分泌される。気持ちが良くなり、体の痛みを感じなくなる。やる気を出す源となる。
◆ドーパミン:達成したいと考えたときに分泌される。はっきりしたビジョンがあると達成したいと感じ、分泌される。

[親和動機]
◆セラトニン:皆の前で感謝されると分泌される。自分の行いに誇りや自信をもてるもので、関係を深める。リーダーは自分を犠牲にしても部下を守ることで、分泌を促せる。
◆オキシトシン:好きな人と一緒にいたいという気持ちや、安心感があると分泌される。愛情から、所属する組織に忠誠心が現れる。

部下を信頼し、部下の安心や能力発揮につなげるには、自分の時間を使って、へたに条件づけせず相手に寛容さと親切をもって関わる。リーダーとはトップにいることではなく、危険に真っ先に立ち向かい、メンバーの安心感を作り、人間としての満足感を出すことが大事と。教科書的だけど一応メモ。

●弱みを見せるのも部下との信頼構築に
これは潮流といっていいかわからないが、基調講演の一つだったBrene Brown氏のメッセージ。リーダーは部下に対して「弱さを見せてはいけない」というマインドになりやすいが、VUCA(*2)のご時世、万能なリーダーなど土台無理な話だし、リーダーでも迷うことや誰かに助けを求めることはある。

そういう前提に立てば、信頼しているからこそ部下に弱い部分を見せるってことで、「自分はこう思うんだけど、あなたはどう思う?」と真剣に相談するのも、部下との信頼関係を構築するのにむしろ有効では、という話。部下は頼りにされていると感じ、その信頼に応えようとする好循環が生まれる。そこで必要なのは、リーダーが部下に弱み(Vulnerability)を見せる勇気。

●優良企業の趨勢と、ミレニアル世代の主流化
1955年のFortune500社(米国の経済誌が毎年発表している企業番付)のうち、2014年に残っている企業はわずか12.2%だそう。

一方、米国の人口ピラミッドでみると、2000年以降に社会に出たミレニアル世代がビジネスの現場で主流に(日本は…)。今やミレニアル世代も30代半ば、マネージャー層に達している。そう言われてみると、そうだ。

このミレニアル世代が仕事上、動機づけられるもののランキングが紹介されていた(*3)。

Most motivating at workは、1位Impact(76%)、2位Learning(59%)、3位Family(51%)。Impactは自分がやっている仕事にインパクトがあるか、社会にどんな影響を与えられているかといったものらしい。Familyは血縁関係にこだわらず、広い意味での家族的なものじゃないか、とのこと。

一方のLeast motivating at workは、1位Prestige(22%)、2位Autonomy(22%)、3位Money(10%)。名声、自律性・自主性、お金では動機づけられませんよと。まぁでも、1位で20%台だからな、へたにレッテル貼って色眼鏡で見てしまうくらいなら、これは聞き流しておいたほうが賢明なのかも、とも思う。

報告会のなかでは、2位のAutonomy(自律性・自主性)のランクインが注目されていた。そういう前提でミレニアル世代にどう関わるか働きかけていくか、みたいな文脈だった気がするんだけど、もしこの調査結果を真正面から受け止めるなら、そここそが人材開発のテーマになるんじゃないかなとも思った。

ラーニング・テクノロジーが進化して、「個別最適化した学習ができるようになってきている、それにどう対応するか」みたいな話も出ていたし、人材開発にかぎらずパーソナライズとか多様化は時代のキーワード。でも、それって「個が自立している」ことありきでうまく循環するものじゃないかなって思う。

自立した個が集まって活動するからこそ、強い組織として個人ではできないことが達成できる。とすると、個の自律性・自主性がもし弱まっているなら、それを受けいれた人材開発をどうするかって議論より、それをこそ人材開発の重要なテーマに据えて、どう伸ばしていくかを議論するのが大事なのかも?そんなことを考えながら話を聴いていたが、その辺が何か語られていたのかは聞き損ねてしまった…。

●マイクロラーニングの一般化
「隙間時間にスマホ見る」みたいな時間の使い方が日常になり、また一口サイズのコンテンツを用意しておき、個々に最適化されたコンテンツを組み合わせて提供できるだけのラーニングテクノロジーも進化を遂げている。というので、マイクロラーニング(切片学習)が一般化してきた。

マイクロラーニングの潮流は、これまで5〜7分くらいにまとめるとかいう話が出ていたけど、今年は、ただ小分けにすればいいのではなく、どう分けて、どうつなげて、どう構造化するかが大事だ、といった話が展開されていたそう。対象者にあわせて、どう組み合わせて提供すると効果的なのか。

それはそうだ。という話なんだけど、これと別に脳裏に浮かんでくるのは、集中を持続する筋力が弱くなっているとしたら、それは放置でいいんだろうかということ。時代にあわせてコンテンツを一口サイズにするのは、個別最適化の面でも理にかなっていると思う。それはそれとして、持続する集中力を鍛えるっていう方向は放置していていいのだろうか。まぁ、やる人は普通に別の場所で鍛えているんだろうけど。どうなんだろう。

●70:20:10の再考
70:20:10の話は昔からよく話されているもので、以前自分がまとめたものだと、効果が出る「仕事の教え方」(Slideshare)の8〜9スライド目で紹介している。

もとをたどると、優秀なマネージャーを対象に「どんな経験が役立っているか」を調査したところ、70(自分の直接経験)、20(他者の観察・アドバイス)、10(公式な研修・読書)という結果に大別されたという話なんだけど、今は解釈が広がって、マネージャー層にかぎらず広く紹介されている。

今年語られていたのは、これは「だから70が大事」って話だけじゃなくて、「20」とか「10」もそれぞれに意味があり、それらをどう有機的に結びつけてパフォーマンス向上につなげていくかが大事だよね、という話。

これは私もずっとそう思っていて、人前で話すときにもそのように伝えていたから、まぁそうだよなと答え合わせができた感じ。ちなみに、今年はこの70:20:10も脳の画像と同じくらい頻繁に目にしたそう。

それはそれとして、これは言うは易し、行うは難しだ。ラーニングカルチャーを下支えに、70:20:10をどう統合的にデザインしていくか、それを現場のパフォーマンス向上につなげていくか。これを、いかに実直に実践していけるかが実務者の仕事の本分だ。

●全部の話が絡み合っている
ヒューマンバリュー会長の高間邦男氏いわく、「セッションのカテゴリーは分かれていても、全部の話がからみ合っている状態。様々な要因が影響しあっていて、分野ごとに切り分けて語るのが難しくなった」。

マインドエコーの香取一昭氏いわく、「e-learningとクラスルーム・トレーニング、同期型と非同期型、フォーマルとインフォーマルといった分断思考ではなく、全体統合が必要。部分最適では時代の要請に応えられない」。

複合的に施策を講じていかねば意味なし!という意味では、70:20:10を有機的につなげる話もそうだし、先述した3つのポイント(コネクション、プラットフォーム、継続的に学ぶ仕組みづくり)もそう。どれか1コやってどうこうじゃない、組み合わせて統合デザインしていく必要性は、今回のカンファレンス全体で強調されたことの一つと言えそう。

●ラーニング・トランスファー
リクルートマネジメントソリューションズの嶋村伸明さんは、前年も報告会でお話をうかがって、すごく面白かったので、今回も嶋村さんの話を聴きたくて参加したようなものなのだけど、やっぱり面白どころが凝縮されていて興味深く聴いた。

そのうちの一つが、研修でやったことを現場にどう転移・定着させるかというラーニング・トランスファーの話題。研修を行った後、
「新しいスキルを仕事に適用した人」が15%
「〜適用しなかった人」が20%
「〜適用しようとしたけど、元にもどった人」が65%(*4)
と、最後のscrapped learningが一番多い。

ここでの工夫としては、Idea Developmentのジェイソン・ダーキー氏の話が有用だった。転移を促す工夫として、研修プログラムを次の5点からチェックする(と言いつつ、5点目は判然とせずじまいに…)。
1.大変なのは講師より受講者だ
2.少なくとも2/3の時間が演習やフィードバックに使われている。インプット時間は1/3に過ぎない
3.職場で使うツールを中心に行われている
4.教材が、第三者からの説明っぽくなく、アクション中心に「こうせよ」という言い方になっている

●人事評価制度のRating廃止
ヒューマンバリューの川口大輔氏の話から。Fortune500社のうち、10%がすでに年1回の人事評価・ランキングを廃止しており(*5)、No Ratingが広がっている。

要因として川口さんが整理されていたのは、
1.従業員数やマネジャーのエンゲージメントを低下させる
2.マネジャーとメンバーの関係を悪化させる
3.かけるコストと得られる成果・効果がつり合わない
4.ビジネスの実態にそぐわない(VUCAの時代に、期初目標を立てて半年後に評価するのってどうなの…)

GAPは、グローバルで億単位のコストをかけて評価制度をまわしていたそうで、Ratingを廃止した企業の一つ。他に、GE、Deloitte、Microsoft、Accenture、Zappos、Pfizerなどが知られるところ。

NeuroLeadership Instituteの調査グラフをみると、2010年くらいから廃止の動きが活発化しており、2015年時点でNo Rating化した企業が50社を超えている。2017年までには、Fortune500社の50%がNo Ratingに移行し、継続的なフィードバックモデルを採用するのではないかという予想(*6)もあるのだとか。

ただ、この話は昨年話題になっていたんだけど、今年は評価をテーマにしたセッションがなかったみたい。それで廃止してどうなったの?というのが知りたいんだけど、そこがわからずもやもや。どういう仕組みに変えて、それはうまくいっているのか。結局なんらかの評価を行って、社員ごと違う給与額を支払うという営みはあるわけで、それをRating時代より高い社員の納得感を得て実現できているのか、その仕組みとは?が気になるところ。来年は復活するだろうか。

いい加減長いので、とりあえずこの辺で…。

*1: ATDとは、組織における職場学習と、従業員と経営者のパフォーマンス向上を支援することをミッションとした、世界最大の会員制組織。ATD-ICEは毎年ATDが主催する世界最大級の人材開発国際会議で、世界中から企業の人材開発関係者やコンサルタント、教育機関、行政体のリーダーなど1万人以上が集まる。400近いセッション、350以上の展示などから構成される。今年は5月に米国コロラド州デンバーで開催。私が参加したのは、日本からの参加者による報告会。

*2: VUCAとは、Valatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉。もとは米国の国防省用語だが、最近はビジネス文脈でも使われている。先々よくわからない時代に生きているよね、ということを言うときに使う。確か「ヴーカ」って言っている。

*3: ATD-ICE2016「W305: What Motivates Me: New Research Into Employee Engagement」

*4: ATD-ICE2016「SU217: Boost Training Transfer Using Predictive Learning Analytics (New Model) 」

*5: Cliff Stevenson (senior research analyst for the Institute for Corporate Productivity)

*6: Kris Duggan (co-founder of BetterWorks)

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