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2016-03-27

人の気まぐれ、失業が生んだ文学

今日はふらっと神保町に行った。帰り道、なんとなく電車に乗るのをやめて靖国通りをてくてく歩いてみたら、ずっと桜の木の下を歩くこととなった。歩きだした時には桜の見頃だなんてすっかり忘れていたのに、気まぐれというのは不思議なものだ。

まぁでも、桜の木の下を数キロ歩いてみたものの大方は三分咲きといったところ。見頃は今週火曜からのぽかぽか陽気を迎えたあたりではなかろうか。

ただ、なぜだか靖国神社の付近だけ七分咲きか、八分咲きかというほど開いているのがあった。あれはなんだったんだろう。日当たりは他と同じようだったのに。「あたし見られてる」的な気合いがそうさせるのかしら。

さて、神保町を訪れたのも気まぐれなら、この本を手にしたのも気まぐれ。エリック・ホッファーの「現代という時代の気質」というエッセイ集がおもしろい。ホッファーは65歳まで沖仲仕として働いた独学の哲学者。

これによると、「文字」というのは紀元前三千年ごろに中東で発明されたらしい。何を最初の文字とするかで諸説あるのかもしれないが。いずれにせよ、文字の発明は「知識や観念の伝達に革命をもたらし、人間の歴史に一時代を画した」と言われる。

ただ実際には、文字の発明から何世紀もの間、その用途は「ひたすら財宝や倉庫の出入をもらさず記録する」にすぎなかったという。文字は書物を書くためではなく、帳簿をつけるために発明された。文字の技術を生業とした書記者は文官(事務官兼簿記係)だった。書記は何世紀もの間、記録をとりつづけた。彼らはその役割の範囲を超えることなく、苦情も夢想もしなかった。

その後どの文明でも、ある時点で書記は「作家」として登場するようになる。古代文明において「文学」がはじめて出現する。では、書記はどのような動機で著作活動を始めたのか。というと、答えはどの場合も同じで、失業したときからものを書き始めたという。エジプトでも、シュメールでも、ギリシャでも、中国でも。

一王国や一時代の崩壊を機に、書記が突如として地位を失う。やるべきことがなくなり、アイデンティティを奪われたとき、彼らは文筆業でもってふたたび脚光を浴びようと試みた。

みずからが有用であるという感覚の喪失と感動的な行動へのはげしい願望が、あらゆる人々(略)の内面で創造的な流れの堰を切ることがある

「現代という時代の気質」に収められたエッセイはどれも1960年代に書かれたものなんだけど、ここでいう「現代」がまったくもって今に通じていて、50年やそこらでは終わらない変化のただ中に、今自分は生きているのだということを実感させられる。

オートメーション化によって多数の失業者が出るとの予想は、当時も今も問題に挙げられる。ただホッファーは、人間に困難なのは「オートメーション化」を受け容れることではなく、「ドラスティックな変化」を受け容れることだとしていて、これもなるほどなぁ、確かになぁと。

ドラスティックな変化って何かというと、ホッファーは「現代の主要な困難と課題」として、序文に4つの変化を想定している。

  1. 後進性から近代性への変化
  2. 従属から平等への変化
  3. 貧困から富裕への変化
  4. 仕事から余暇への変化

そう、どれも「きわめて望ましい変化、人類が幾千年もの間祈り求めてきた変化」。としつつ、

しかし、いかに望ましかろうと、ドラスティックな変化は人類がかつて経験した中で最も困難で危険な経験であるということもあきらかになりつつある。

習慣を断つことは「苦痛で損傷が大き」いし、価値を分解させることは「致命的な死の灰を降らせるかもしれない」。

こうした変化に直面する現代、人はどうなるか。ホッファーは二つの可能性、闇と光を示唆している。

一つは闇。

熟練したきわめて有能な人々が、自らが有用で価値があるという感覚をもてずに徒食する(略)。無為を余儀なくされた有能な人間の集団ほど爆発しやすいものはない。

もう一つは光。

過激主義や不寛容を生むような満たされぬ行為への願望が創造的エネルギーをどっと放流するかもしれないということが、人間本性の気まぐれな特徴のひとつである。

既存のものがくつがえされる中、その先に新しい価値を創造することができるかどうか。後者の気まぐれに期待を寄せたい。

あと、これもなぁ。

われわれは革命が変化の原因である、と考えていた。実際はその逆で、変化が革命の地盤を準備するのだ。(中略) 変化が先なのだ。事態が全然変化しないところでは、革命の可能性は最も少ない。

変化が先で、革命は後。読んでは、確かになぁ、なるほどなぁと、もう、そればっかり、感心しきり。

*エリック・ホッファー「現代という時代の気質」(ちくま学芸文庫)

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