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2015-05-07

人の言葉を書き写す

クライアントに研修を提供した際、受講者にはたいていアンケートを書いてもらう。内容は案件によって変えるけど、研修の直後に会場内で紙に書いて出していってもらうことが多い。今どき筆記用具で書かせるなんてナンセンスだ、会場に端末がないなら席に戻ってからフォームに入力して送ってもらえばいいだろうという幻聴がどこからともなく聞こえてくるが…、まぁ今のところやっぱり紙が多い。

紙のほうが何かと取り回しがきくのと、研修終了直後に紙で取るかぎり提出率100%近くで回収できるが、一回会場の外に出してしまったら回収率低下は免れないだろうというのと、(私の経験上は)回収できたものも会場内の紙回収に比べると感想コメントが短く薄く適当に、あるいは空欄になりがちなのと。ほかに、研修後に他の参加者と話してから書くとバイアスがかかりやすくなるといった話もあったり、いろいろありまして。

それで、とにかく今は研修直後に紙で取ることが多いのだけど、そうすると、研修の後にクライアント担当者にレポートを提出する際、こちらでひと通り参加者のコメントを入力してデータ化することになる。当日アンケート原本を持ち帰り、原本は原本でPDF化して先方に送るのだけど、それと別に集計結果をグラフ化して、感想などのコメントは全部打ち込んで、それを踏まえて総括をまとめてレポートにする。

翌営業日には提出するようにしているから、受講人数によってはけっこう大変な作業になる。こんなことを書くと、なんて無駄なことを、もっと有効な時間な使い方があるだろうと白い目で見られそうだけど、私はけっこうこの入力時間を大事にしており、かなり創造的な時間だと思っている。

もちろん、ただ漫然と入力しているわけじゃない。その研修提供に際して分析→設計→開発→運営をやってきた人間として書かれた文字と向き合う。そうして書き写していると、読んでいるだけのときより書き手への心情理解が深く、その人の主観に身を寄せてコメントを吸収できる。発見も多く、洞察も深まり、改善策の発想も働きやすい。

なぜそんな違いが出るのか。読むより書く(入力する)ほうが、入力の手間がかかる分だけ一人ずつに割く時間が長くなっていることが一つあると思うんだけど、それ以外にもなんとなく理由がありそうである。書き写すという行為の中に、何かありそうなのである。

一人ひとりの言葉を書き写していると、その人の気持ちに寄っていくというのか、その人の視点からものを捉えようとしていくというのか、そういうところへおのずと導かれていく感じがある。そこから、この人にどう受け取られたのか、どう意味づけられたのかを解釈して、ではどう改善の余地があるのか…というのを一歩ひいて考えていく。

一つひとつレポートに打ち込みながら、受け取った反応、深まった洞察、思いついた改善策を隣りのテキストエディタに書き留めていく。このサイクルが自然とまわる。そうしてレポートとテキストエディタを行き来していくと、ひと通りの入力を終えた頃には、たくさんの自分の言葉でテキストエディタがうめつくされている。それを見直して、捨てたり掘り下げたりくっつけたりして構造化し、レポートを仕上げる。

入力業務を他へお願いすることも、できないわけじゃない。あるいは遠くないうちに、一般的なアンケートの取り方が変わり、デジタル化するかもしれない。書き手にしてみれば今やキーボード入力のほうがスピード落とさず自然に思いや考えを書けるという人も多いだろう。今提供している研修も全部が全部、紙ではない。こんなアナログなやり方をしている研修会社は今や一般的じゃないかもしれない。

ただ、こうして人のコメントを入力している時間、その人ひとりの気持ちに寄り添って、その人のものの見え方、感じ取り方に意識を集中するという時間は貴重である。アンケートの取り方やレポートの編集方法は変わっていくかもしれないが、入力の手間を省いたとき、それまで書き写す過程で得られていた視点、心持ち、洞察、発想が抜け落ちていかないようにしたい。

印刷技術がない頃は、親鸞が法然に許されて「選択本願念仏集」を書写したように、残したい教えを一文字一文字書き写していた。その過程を経て得られたのは、決して書き写した記録だけではなかっただろう。人の言葉を書き写すという行為の中に、そこに書かれた「人の言葉」が「自分の言葉」に乗り移ってくるような、「自分の心」が「人の心」に重なっていくような感覚を覚える。形を変えながらも、その尊さを残したい。

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