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2014-05-07

知識活用と濫用のはざま

ゴールデンウィークのはざま、Yahoo!ニュースで、学生がキャリア選択で重視するのは「ワーク・ライフ・バランス」という記事が取り上げられていた。

「若い時分からワーク・ライフ・バランスとか言ってないで働け」という大人の反応を引き出したい記事なのかしらと穿った見方をしつつ読み終えた後、Twitterの反応をみてみたら「ほにゃらら相互フォロー」というよくわからないアカウント名のtweetで埋まっていて、なんだかなぁという感じに終わっていた…。

それはさておき、個人的に関心をもったのは、記事より調査そのものだ。学生に対して「キャリア・アンカー」を使って仕事の価値観を問うているのに、違和感を覚えたのだ。

キャリア・アンカーというのは、キャリア研究の世界ではよく知られるシャイン氏が提唱したもので、「キャリアを歩む上でけっして断念したくないほど大切なもの」を8つのアンカー(いかり)として表したもの。

例えば、仕事を選ぶとき、自分の専門を究められるところを第一に考えたい人もいれば、一つのことを究めるよりいろんな部門・職域を体験して人を率いる立場に昇り、組織全体でできることを大きくしていくのが面白いという人もいる。

どんな仕事に携わるかより、自律的で自由な職場環境が欠かせないという人もいるし、安定した仕事、あるいは仕事とプライベートのバランスを何より重視する人もいる。

起業家とひとくくりにいっても、何か立ち上げたい事業アイディアがあるから起業したい人もいれば、これという事業アイディアがあるわけではないけれども、事業を起こして成功させるという挑戦に生きたいがために起業する人もいる。

どれが、より素晴らしいといった優劣や善悪はない。8つの価値観をフラットに眺めてみて、これだけは断念できないという自分のアンカーを知っておけば(また優先順位を知っておけば)、キャリア選択の際、自分の仕事観に照らして答えを検討しやすいだろうという、そのためのツールだ。自分の価値観を否定的にとらえている人にとっては、こういう仕事観もあっていいのかと自分を許せる、自己肯定のツールにもなる。

この調査では、「あなたはどれを重視する?」というのを、学生が答えやすい8つの選択肢に展開して問うている。調査内容は、こちらのアイデム「2015年度就職活動に関する調査」24ページで確認できる。

ただ、自分のキャリア・アンカーは10年ぐらい仕事経験を積まないと見えてこないと言われている。仕事でどうしても犠牲にしたくないものって、実際に仕事に就いて、仕事内容や環境がいくつか変わる経験をもってはじめて、実感をともなって見えてくる。シャインはそのように話しており、私もそう思う(個人差はあるだろうけど)。

本人の内側に十分な仕事観が育まれていない状態でキャリア・アンカーを問うのは、学生に対して「自分をより深く知る」機会を提供するより、「早計に自分の価値観を狭めてしまう」作用を懸念した。それが冒頭に述べた違和感。

ただ、これは学生へのメッセージではなく調査としてやっているものだし、全体像を知らない立場で特別これに批判的な思いを寄せるわけじゃない。自分ごととして、この間EC業界で働く社会人向けに講演する機会があり、私もちょうどキャリア・アンカーを取り入れて話をしたので、それについて考えた。

私は社会人向けを前提にこのネタを採用したので、それは良しとして、例えばもし同じ話でいいので学生向けに講演しろという依頼があったとき、私はキャリア・アンカーの話を取り外す検討を怠りなくできただろうか。この一件で考えることをしなければ、組み込んだまま話してしまっていたかもしれないと思うと、冷や汗をかく(別に学生向けに話す予定があるわけじゃないが)。

必ずしも抜くことが正しいと思っているわけじゃない。場合によっては、「これは実際働いて10年くらい経ったときに見えてくる軸だと言われているんだけど」と言い添えて、「仕事をやってみて初めて見えてくる価値観も、こんなふうにあるから、まずはやってみよう」と促すツールとしては有用かもしれない。ものは使いようだ。でも、考えなしに採用すべきじゃない。

理論自体の責は、その理論の提唱者にあるけれども、その理論をどんな文脈にのせて何の目的で誰に向けて提示するかは、語り手の責だ。自分が講演する立場としても、講師を手配して学習の場を提供する立場としても、改めて肝に銘じたい。細部まで、怠りなく、届けたい人に向けて作りこむこと。

また情報にあふれた昨今では、理論を聞きかじることが多いだけに、普段から身の丈にあった理論とのつきあい方をしていきたいと気が引き締まる。副作用を知らず、その薬のメリットだけで薬を処方するようなことは、人に対してはもちろんだけど、自分に対しても厳に慎みたい。

一方で、身の丈にあった理論やツールの活用をしていけることも、大事なことだ。おっかなびっくりになり過ぎて、触れない使わないではもったいない。自分が直面していることの目的に応じて、うまく理論やツールとつきあっていきたい。バランス大事。

そのための基本的な約束ごとの一つが、その理論なりツールなりを知るときに、それの外側にも目を向ける心がけ。それの中身を知ると同時に、それの上の階層にあがってそれがどんなものか捉える、それの隣や対極にどんなものがあるかを捉える。

そうすると、こういうときには有用だけど、こういうときにはそぐわないという活用と濫用のはざまが見えてくる。「それ」以外のことを知らずして「それ」を知ったとは、決して言えないのだ。

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