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2012-05-08

いいじゃない、それで

ゴールデンウィーク後半は実家に戻り、父と妹と私で1泊2日の旅行に出かけた。行き先は千葉の南房総。実家からだと大移動という距離でもないが、車で数時間かけて南下する小旅行。内房は木更津やら富津あたりをうろちょろ観光し、そこから外房の鴨川のほうへ出て旅館に1泊。

部屋に入ると、窓一面に太平洋が広がる。お風呂も露天風呂から海と星空が望める。旅館は実に千葉らしく、さりげなく程よく地味に心地よい。2日目は鴨川シーワールドで、イルカ、シャチ、アシカ、白イルカのショーを観た。

このオーソドックスな観光旅行というのが、たまらなく懐かしくて心地よかった。「家族でオーソドックスなことをする」って、ものすごく尊いことのような気がするんだ。子どもの頃の体験もそうだけど、大人になってから追体験するオーソドックスも独特の良さがあるもんだな、と思った。思い出が重なる。

家を出発するときは小雨がぱらついていたけれど午後にはすっかり晴れて、2日目は朝から素晴らしい快晴に恵まれた。海と空の境目が曖昧だった。気温も25度近くあったのではないか。その翌日には各地で雹が降ったり竜巻が起こったりと大荒れだったので、運が良かったとしかいいようがないが、なんだか本当に自然の優しさに包まれた2日間だった。なぐさめてくれているようでもあった。

久しぶりのドライブも、なんだかとっても懐かしかったな。運転は妹まかせだったが…、高速道路を走るのも、サービスエリアで一息入れるのも、海岸線や山道を行くのも。うちの家族はなんだかんだとよく出かけたから、海に行っても山に行っても、子どもの頃の家族旅行がほんわりと思い出される。子どもの頃のドライバーはきまって母で、だからきっとこの旅の間、私たちは各々に何度となく母を思い出した。

それにしても、今回の旅行ではおおいに自然の偉大さを感じた。太陽の光を浴びて輝く若葉の中を走ることが、あんなに生命力を与えられるものだとは。すべての音を丸のみしてしまう波の音に包まれて広大な太平洋をただぼーっと望むことが、あんなに感慨無量の気分を与えてくれるとは。山の連なりに夕日が沈むのを見届けることが、あれほど心ほどけることだとは。

朝日に照らされてきらきらまぶしい海水の透けるのを眺めることが、あれほど幸せなことだとは。その浅瀬でカタクチイワシの大群と、ウツボがそれに食らいつくのを観るのが、声をあげずにはいられないほどの興奮を呼び起こすものだとは。すっかり忘れてしまっていた、どこかに置いてきてしまっていたような高揚感を、自然は一瞬にして私の中によみがえらせ、そんなの朝飯前だよって顔をしている。

その強大な力は、父にも届いた。当初から、この旅行で父の気分をどうこうしたいと作戦を練って出かけたわけじゃない。そんな大それた企てが奏功するほど、人の気持ちは簡単じゃないと思っていた。母を亡くした父の胸のうちは、簡単じゃないのだ。だから、みんなで一緒に、いい家族の時間を過ごせたらいい、そう思って出かけただけだった。けれど、自然がやってくれた。この旅行中触れた数々の自然は、父にも生命力を注ぎ込んでくれたようだ。

そう感じる父の言葉を、旅行中に聴いたのだ。それはほんとにささやかな気分の上向きだけれど、とても大事なことだった。私はただ、「いいじゃない、それで」とゆっくり笑って相づちを打った。できることは、自然のなした大業を邪魔しないことだけだ。父の心のうちに自然の力が浸透していくのをただ見届けた。そして感謝した。自然に心から感謝したし、改めて畏怖の念を抱いた。これでどうこうというものではないけれど、今回旅行に行ったことは、とても良かったのだと感慨深く思う。

今年のゴールデンウィークは比較的アクティブに過ごしたが、合間合間で思いや考えを巡らせて試行錯誤していた。結局のところ、導かれるのは自分のなしていることや自分自身のちっぽけさではあるけれど、そのちっぽけさをわきまえて、ちっぽけなことを大事にしていけばいいんじゃないかなとも思う今日この頃。つまり「いいじゃない、それで」ということなのだ。まとまる話でもないので、という締めにしておく…。

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コメント

言葉の食卓のようなエントリーですね。
よかったぁと思うと同時に、GWにどこにも出かけず、仕事と家の整理ばかりやってたのが悔やまれます。笑
素敵なGWでなによりですね!

タクミさん、お久しぶり!コメント嬉しいわ。
自然の偉大さなんて言い表せるもんじゃなくて、あれもこれもと言葉を並べていたら食卓状態に…(笑)。
私はこうした小旅行自体久しぶりだったんですよね。たいがいインドアなので…。でもやっぱり自然に触れるって欠かせないもんだなと。週末にでもぜひ出かけてみてください。この時期の若葉は、ほんといいわーと思いました。

うちも相模湾はさんで反対側にいましたよ。両親ともに老いや病気の気配が落とす影はありつつも、元気でいてくれることには感謝でした。自然の力とともに、孫パワーもなかなか偉大ですが、「あと何回こういう時間が持てるのかな」ということは頭をよぎりますね。

スーパームーンが照らす南伊豆の海は神がかった美しさでした :-)

おかもとさん一家のキャンプの写真などは、いつもにこにこしながら拝見していますよー。三代そろってお向かいにいらしたんですね。孫パワーは、そりゃ強大そうだ。
「あと何回…」と頭によぎるのは、なんともいえない想いですね。とにかく今このとき、この幸いをありがたく堪能しようって気持ちになりますね。
私は月をみるのを失念してしまったのですが…。

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