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2012-04-14

「くださる」の奨め

最近、「〜が〜いただく」という誤用をよく耳にする。「○○さんが著書を提供いただきまして〜」「○○さんがお話しいただいた先ほどの件は〜」みたいな。書くとさすがに、おかしいと伝わるだろうか。でも、話し言葉の中ではけっこう頻繁に使われているのだ。

「〜いただく」というのは謙譲語で、自分の行いをへりくだって表現することで、相対的に相手を上に持ち上げる敬語表現だ。「〜(して)いただく」は「〜(して)もらう」をへりくだった言い方だと覚えておけばいい。「本をもらった」は「本をいただいた」になり、「本を提供してもらった」は「本を提供していただいた」になる。

主語は、私だ。私が「本を提供してもらった」のだ。「私が本を提供してもらった」のだから、「私が本を提供していただいた」のであって、「○○さんが本を提供していただいた」にはならない。もし「○○さんが本を提供していただいた」が成立するシーンを考えるとすれば、私から見て、○○さんよりさらに敬うべき第三者がいて、その人に敬意を表すために○○さんの行いをへりくだった言い方にしているということになる。

別に目くじらたてることでもないと言われればそうかもしれないし、私も特別、敬語の誤用を見聞きした現場で、目くじらをたててどうこう責め立てたりはしない。敬語を大事に使いたいのは私の個人的なこだわりなので、その度合いを人にそのまま求めるものでもなかろうとも思っている。ただ、きちんと使いたいとは思っているけれど、人の使うのを見聞きして誤用を覚えてしまっただけだったらもったいないので書いている。敬語を使うなんて、それこそ人に伝わってこそ意味があるものだろうと思うし。

さて、実はこれが言いたいことの核心ではなくて、私が書きたいのは「くださる」の奨めだった。前段が長くなってしまった…。「〜いただく」というのは、「〜もらう」の謙譲語だ。「〜もらう」とか「〜してもらう」というのは、こちら側がしてもらいたいなぁと思って、してもらうことだ。しかし、それ以外にも、相手側がしてあげたいなぁと思って、してくれることというのがある。これをしてもらったときに、「いただく」を使うと、ちょっとしたニュアンスのズレが生じてしまう。

どういうことかというと、「○○さんに本を提供いただいた」と「○○さんが本を提供くださった」ではニュアンスが違うということだ。前者では「私が本が欲しいなぁと思っていて、○○さんがくれた」ことが窺えるが、後者では「○○さんが私に本をあげたいなぁと思って、率先して本をくれた」というニュアンスになる。誰の意思によってそれがなされたのか、というところが「いただく」で表した場合と「くださる」で表した場合とでは違うのだ。

「いただく」は「私は○○さんに××していただく」という当方主体の表現、「くださる」は「○○さんは私に××してくださる」という相手方主体の表現だ。その××という行いの意思は、主語に宿っている。「〜(して)くださる」は「〜(して)あげる」の尊敬語だ。相手の行いを上に引き上げることで、自分の位置を相対的に下げて相手を敬う表現だ。

「いただく」と「くださる」はどちらも使う用途があり、今世の中はどこもかしこも「いただく」のオンパレードになっている感があるけれども、「くださる」が出てくるとちょっと表現が豊かになるし、またちょっと、こちらからのお願いでなく相手の善意によって事がなされたという背景が伝わりやすくなるんじゃないかと思う。説明がわかりづらかったかもしれないけど、時々そんなことをぶつぶつ思っている。

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コメント

ものすごーーく同意です!
「くださる」って便利な言葉なのに、ナゼみんな使わないのだろうと常々不思議に思っていました。

「~が~いただく」という表現は、いつの間にか主語がすり替わっている感じがして、フワフワします。

おぉ、せんがんさん、ふかーい同意をありがとうございます!たぶん、人の行いを敬語表現する際に、とりあえず「いただく」をつけておけばなんとか…という感じで流れ着いたのだと思うのですが。
でも「いただく」と「くださる」の使い分けがもっと普及すると、ちょっとだけど確かな一歩になるかなぁなんて思います。豊かさに向けて。

ふと思い出したのですが、仕事のメールにおいても「○○させていただきたいので、□□していただけますか?」みたいに「いただく」を乱用するケースをよく見かけます。
「その文章、内容そのものがおかしいYo!」とかいうツッコミはひとまず置いておくにしても、せめて「いただけ」を「ください」にすればずいぶんスッキリした印象になるのになぁ、と思ったりします。

音楽を奏でるように、自然なリズムで話せるといいですよねぇ。かくいう私も、口頭で話すのって得意でなく、自分の取材運びとか後で録音を聞いていると、とても恥ずかしい気分になります…。敬語の話とまた別ですが。

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