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2011-05-08

娘の分際

3日は、母の日のカーネーションを買って実家に帰った。夕方家に着き、遺影の前にカーネーションを。その後、父は就寝するまでの5時間ほど、ほとんどぶっ通しでしゃべり続けた。前回の帰省時からその日まで、大小さまざまな気がかりがたまり込んでいたようで、とにかく一つひとつ話を聴いては荷解きしていたら、5時間経過していた。この間に30個くらいのもやもやは晴れたのではないか…。

翌朝はお勤めしていたときのスーツ類を整理したいというので、一着一着クローゼットから出しては、これはいる/いらないの判断をして分類。台所にある使わなそうな調味料も、常備薬の箱の中にある使わなそうな薬も、気がかりだけど捨てられない…と困っているようなので、一つひとつ手に取っては品定めして、いる/いらないをざくざく分類。

要するに「いらない」とは思っているのだけど、もったいなくて自分では「捨てる」という判断がつかないという類いのもの。ものがない時代に生まれて「もったいない」がしみついているのだとは本人の弁。さらに一つひとつが母が買ったもの、母が使っていたものと感じられるところもあるのだろう。

とはいえ、虫さされの薬なんて使用期限をみてみると2001年もの、2005年もの、2009年もの、2012年ものと何本もあって(どのお宅でもそうなはず!)、「これはさすがに2012年もののラナケインだけでいいでしょう」と。すると父が「いや、2009年のは残しておこうか」とか言うので、「いや、2009年のも十分使用期限ぎれだし…」とたしなめて捨てるコーナーに。

でも確かに、こういう作業は二人であーだこーだやる分にはおかしみもあるけれど、一人ではやる気にならないものだ。ちっちゃな文字で、チューブの端に書かれた使用期限をチェックしていくのは億劫だし目も疲れる。そんなわけで、調味料の類いも同じように賞味期限ぎれのものをあーだこーだ言いながら整理。いやー、すっきりしたと父が安堵の表情を浮かべていて、これもよかったよかったの一件落着。

それから、お寺さんとお墓に足を運んで新盆と墓石の情報収集。帰りに伯母の家に立ち寄り、新盆の予定の情報共有におしゃべり。父がしゃべりたいことは父にしゃべらせて、言い損ねていることは「あと新盆の話」と促し、父が私に言ってほしそうなところはこちらで話を引き受け、従姉妹に「まるで秘書みたいね」と言われたが、一応母に代わって似非パートナー。

兄と妹と電話でやりとりし、新盆の予定も目処がたって、母の洋服ダンスにも一通り新しい防虫剤をセット。とりあえず諸々すっきり。なんとなく、今後の家族の中の自分の役割が位置づけられてきた感あり…。ひとまず大方今後の予定も見えたので、あとは一つひとつやっていくかという感じ。(似非)母さん頑張るっ。

父は毎朝起きると、まず仏壇のお水を新しくして、母にモーニングコーヒーを出し、続いて朝ご飯を作って母に出す。毎朝ありがとうとごめんねの言葉をかけているという。彼女のストレスを自分が半分でも負ってあげられなかったことを詫びているのだという。一人で出かける先は母との思い出の地。初めて一緒に暮らした団地にも足を運んだようで、写真を数枚撮っていた。どんな気持ちだったろう。

私が東京に戻る日、父は予定があって私より先に表に出ていった。「じゃあ、またね」と軽く挨拶をして。前日に父と私とで、いるものといらないものに分類したスーツの束は、2階の一室のじゅうたんに広げたままになっていた。私はその束を大きな透明の袋3つに分けて入れ、1階に移動し、「古着」と書いた紙を一袋ずつに貼った。次の市の有価物回収の日がいつかを調べ、何日の何時までにこの3袋を出しておけば有価物として市の人がリサイクルにまわしてくれる、雨天時はダメだそうなので翌週にまわすこと!と書き置きを残して東京に戻った。

つまるところ、娘にできることというのは、そういうことであり、それくらいのことでしかなく、それをこそすべきなのだと、そんな気がしたのだった。適当に選んだ慰めの言葉は、意味をもたないどころか、より一層の自責の念を生むことになりかねない。娘が父にかける慰めの言葉なんて、毒になることはあっても父を救うことには働かないだろうと気が引ける。父が私に、あなたのせいじゃないと言われて、どう救われるというのだ。

ただ私にできることは、父が吐く言葉一つひとつを丁寧に受け止めること。そして、こまごまとした父の気がかりを晴らすこと。例えば、父の古着を3袋に詰めて書き置きを残すこと。自分のために面倒な作業をかって出る娘があることの記憶は、少なくとも娘が父にかける慰めの言葉より救いがあるに違いないと信じて。父からは晩に「ありがとう。ありがとう。ありがとう。」とメールがあった。

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